顧問の働き方2026-08-03監修:山根一城(株式会社ポテンシャライト)

顧問は掛け持ちできるか——複数契約の目安と利益相反の線引き

この記事の要点

「先生、他の会社の顧問もされてるんですか」と、契約したばかりの社長にストレートに聞かれたことがあります。僕は「はい、今は2社です」と答えたのですが、社長は少し安心したような、少し不服そうな、複雑な顔をしていました。掛け持ちという言葉には、まだ少し「片手間」のニュアンスがつきまとうのだと思います。

0.結論:掛け持ちは前提、ただし「本数」より「設計」で決まる

結論から申し上げると、顧問の掛け持ちは特別なことではなく、複数の企業に伴走することそのものが顧問という働き方の前提だと僕は考えています。ただし、何社契約したかという「本数」よりも、稼働日数と利益相反をどう設計するかのほうがずっと重要です。本数だけを追うと、途中で必ずどこかにしわ寄せがきます。この記事では、契約社数の目安から利益相反の線引き、前職の規定確認、そして実際のつまずき方まで、僕が現場で見てきたことをもとに順を追ってお話しします。

1.顧問の掛け持ちは何社が目安か——契約数と稼働日数の関係

僕がこれまで見てきた顧問の方々の肌感で言うと、1社契約の方が最も多く、次に多いのが2〜3社の掛け持ち層です。ここで言う「社」は、月1回以上の定例ミーティングが発生する契約単位を指しています。単発のスポット相談は含みません。

稼働日数の目安で見ると、1社あたり月2〜4日(定例訪問と事前の資料作成、議事メモの作成を含む)というのが体感値としての相場です。これを積み上げると、2社で月4〜8日、3社を超えると月10日を超えてきます。本業や自分の時間と両立させるには、この10日という数字が一つの心理的な壁になると感じています。

契約社数稼働日数の目安(月)向いている状態注意点
1社2〜4日顧問として稼働を始めたばかりの時期収入が特定の企業に依存する
2〜3社4〜10日稼働リズムを掴んだ中堅期スケジュール調整の負荷が急に増える
4社以上10日超紹介や指名が継続的に発生する層本業や生活時間との両立、資料作成の質の担保

僕が伴走したある方は、最初の半年で一気に5社の契約を受けてしまい、3ヶ月目あたりから議事メモの提出が遅れ始め、ある会社から「前回の宿題はどうなりましたか」と催促を受ける事態になりました。本人に悪気はなく、単純に稼働日数の見積もりを甘くしていただけです。掛け持ちの失敗は、能力の問題よりも見積もりの問題であることが多いというのが、この一件から僕が学んだことです。その方はその後、契約を1社整理し、残り4社を固定曜日制に切り替えたところ、半年後には遅延がほぼゼロになりました。稼働の器は、車の燃料タンクのようなもので、目盛りを見ずに走り続けるといつか必ず途中で止まります。

2.掛け持ちで踏んではいけない一線——利益相反の線引き

掛け持ちを考えるとき、多くの方が「同業種の会社は避けたほうがいいのか」と悩みます。ですが僕の考えでは、線引きの基準は業種の一致ではなく「同じ顧客・同じ商流に接するかどうか」です。

例えば同じ製造業でも、扱う商圏や顧客層が全く重ならなければ、双方の企業にとって不利益は生じにくいというのが実務上の感覚です。一方で、業種が違っても同じ取引先に別の立場で関わってしまうと、片方の会社の情報がもう片方に流れているのではないかという疑念を招きます。契約前に確認すべきは業界名ではなく、取引先リストの重なりです。

もう一つ実務でよくあるのが、採用や組織の顧問として複数社に入っているケースで、候補者情報が意図せず重複してしまう場面です。同じ人材紹介会社を通じて似たポジションの候補者を紹介された場合、どちらの会社の案件として動いているのかを自分の中で明確に分けておかないと、後から「その情報はどちらから聞いたのか」と問われたときに説明ができなくなります。僕自身、二社から同じ候補者の推薦を受けた際に、自分のメモの中で「A社案件」「B社案件」と色分けして管理するようにしてから、この種の混乱はなくなりました。

利益相反は、実害が出る前に「疑いを招くこと自体」がリスクになります。契約前に相手企業へ「御社と同業のX社の顧問も務めていますが、商圏が重ならないので問題ないと考えています」と自分から開示してしまうのが、最も誠実で、かつ自分を守る動き方だと僕は考えています。隠して後から発覚するより、開示して判断を委ねるほうが信頼は積み上がります。

3.前職の兼業規定・競業避止条項をどう確認するか

在職中に顧問を掛け持ちで始める場合、あるいは退職直後に複数の顧問契約を始める場合は、前職の兼業規定を必ず確認する必要があります。

厚生労働省が改定を重ねている「副業・兼業の促進に関するガイドライン」は、企業に対して兼業を原則容認する方向性を示しています。ただしこれはあくまでガイドラインであり、実際に何が可能かは各企業の就業規則、そして退職時に取り交わした合意書の内容が優先されます。特に役職定年や早期退職のタイミングで会社都合の退職金が上乗せされている場合、競業避止義務や秘密保持義務の期間と範囲が通常より厳しく設定されていることがあります。

僕が実際に相談を受けた方の中には、退職合意書に「同業他社への転職・顧問就任を退職後1年間禁止する」という条項が入っていることに気づかず、掛け持ち先の1社と偶然その対象業界が重なっていたケースがありました。幸い契約前の段階で確認が取れたため実害はありませんでしたが、退職前に合意書を読み返す、あるいは専門家に確認する一手間は、掛け持ちを始める前に必ず済ませておくべき作業だと考えています。確認は口頭ではなく、人事担当者に「この業界での顧問就任は合意書の対象に含まれるか」とメールで質問し、返信を書面として残す形が一番確実です。

4.掛け持ちを成立させるスケジュール管理と契約書の工夫

複数契約を無理なく回すには、稼働日を先に確保してから契約を受けるという順番が有効です。逆に、契約を先に受けてから空いている日を探すやり方だと、どうしても直前の企業が優先されてしまい、後から契約した企業への対応が薄くなりがちです。

契約書の観点では、秘密保持条項に加えて「他社の業務に従事することを妨げない」旨が明記されているかを確認しておくと安心です。多くの顧問契約書では兼業を前提にした文言が入っていますが、まれに専属性を求める条項が紛れていることもあるため、契約前の読み合わせで見落とさないようにしています。

実務手順としては、まず現在の稼働状況を棚卸しして1社あたりの実稼働日数を数字で書き出し(所要30分)、次に前職の兼業規定・退職合意書を読み返して競業避止の範囲と期間を確認します(所要1時間)。続いて新しい契約候補の業界・主要取引先をリスト化して既存契約先との重なりをチェックし(所要30分)、契約書の秘密保持条項と兼業に関する文言を確認します(所要1時間)。最後に月間スケジュールに固定曜日として組み込み、稼働日数の合計が月10日を超えないか確認します(所要15分)。合計で3時間程度あれば一通りの確認は完了し、後から利益相反やスケジュールの破綻に気づくリスクはかなり下げられます。

次の表は、僕が実際に見てきた「2社体制」と「4社体制」のリアルな違いを整理したものです。契約数を増やす前の判断材料にしてください。

比較項目2社体制4社体制
月間稼働日数の目安4〜8日10〜16日
1社あたりの深さじっくり関われる訪問頻度・準備時間が薄まりやすい
収入の分散度低い(依存しやすい)高い(1社離脱の影響が小さい)
向いている時期顧問として始めた直後紹介・指名が安定して入る中堅期以降

5.掛け持ちでよくある失敗と、その対処

実際に複数契約を回してきた方々を見ていると、つまずき方にはいくつかの共通パターンがあります。ここでは代表的な3つを挙げます。

失敗パターン1:稼働日を「気合い」で確保しようとする。契約時点では余裕を感じていても、実際に走り出すと事前準備や急な相談対応で稼働日数が想定より1〜2割増えることが多いです。対処としては、契約前に見積もった稼働日数に1割程度の余白を最初から乗せておくことをおすすめしています。稼働をぎりぎりで組むと、一つの企業でトラブルが起きただけで全体が崩れます。

失敗パターン2:曜日を固定せず、その都度日程調整をする。企業ごとに訪問日をバラバラに決めていると、月末になって「今月はA社に3回、B社に0回しか行けていない」という偏りが起きます。対処は、月初の段階で企業ごとに固定の曜日を割り当ててしまうことです。「火曜はA社、木曜はB社」と決めてしまえば、調整の手間そのものが減り、企業側も予定を立てやすくなります。

失敗パターン3:契約社数が増えるほど、報告の質が落ちる。議事メモや提案資料のフォーマットを企業ごとに作り直していると、社数が増えた分だけ準備時間が線形に増えていきます。対処は、自分なりの共通フォーマットを1つ持っておき、企業固有の部分だけを差し替える運用にすることです。これだけで1社あたりの資料作成時間が体感で3〜4割短縮できます。フォーマットの標準化は、掛け持ちの本数を増やせるかどうかを左右する地味だけれど大きな分かれ目です。

6.(結論)増やす前に、まず「1社を深くする」

掛け持ちそのものは顧問という働き方の自然な形であり、避けるべきものではありません。ただし、契約社数を増やすことを目的化すると、稼働日数の見積もりが甘くなり、利益相反への配慮が後回しになり、結果として1社1社への貢献の質が下がってしまいます。

僕がおすすめしているのは、まず1社の契約を丁寧にやり切り、その企業から「もう1社紹介したい」と言ってもらえる状態を作ってから、2社目、3社目へと広げていくやり方です。本数は後からついてきます。まずは目の前の1社を深くする、それが結果的に一番早い掛け持ちへの道だと僕は考えています。

皆さんいかがでしたでしょうか。掛け持ちを恐れず、しかし焦らず、自分の稼働の器を一つずつ確かめながら広げていきましょう。では今日もがんばりましょう。

よくある質問

Q. 顧問は何社まで掛け持ちしていいのですか?

法律上の上限はありません。僕の体感値では1社契約の方が最も多く、次いで2〜3社の掛け持ちが多い層です。稼働日数で見ると1社あたり月2〜4日が相場感なので、3社を超えると月10日超となり、本業や自分の時間との両立が難しくなってきます。まずは2社で稼働の負荷を試してから増やすのが現実的です。

Q. 複数の会社を顧問として掛け持ちすると利益相反になりますか?

同じ業種というだけでは利益相反にはなりません。線引きの基準は「同じ顧客・同じ商流に接するか」です。同業種でも商圏や顧客層が重ならなければ問題になりにくい一方、同じ取引先に別の立場で関わる場合はリスクが高まります。契約前に業界だけでなく取引先の重なりまで確認することが実務上の対処になります。

Q. 在職中や退職直後に顧問を掛け持ちする場合、会社の兼業規定は関係ありますか?

関係します。厚生労働省の副業・兼業の促進に関するガイドラインは兼業を原則容認する方向で改定が重ねられていますが、実際の可否は各企業の就業規則が優先されます。退職時の合意書に競業避止義務や秘密保持義務が明記されている場合は掛け持ち先の業界選びに直接影響するため、退職前に書面で確認しておく必要があります。

監修:山根 一城(株式会社ポテンシャライト 代表)

IT人材業界20年、ギークリー創業を経て現職。個人として通算4,200名のキャリア面談を実施してきた経験に基づき監修しています。本文中の年収・難易度等は独自ガイドの目安値であり、個人の経験・企業により変動します。

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