税務・お金の実務2026-07-21監修:山根一城(株式会社ポテンシャライト)

顧問の確定申告——事業所得と雑所得の分け方、開業届の判断基準

この記事の要点

「顧問料っていくら入ってくるかは分かるんですが、税金でどれくらい持っていかれるのか、正直よく分かっていないんです」——顧問契約の直前によく聞かれる質問です。

結論から言うと、顧問としての収入は「事業所得」として扱うか「雑所得」として扱うかで、使える控除や損益通算の可否が大きく変わります。そしてこの区分は、契約書に何と書いてあるかではなく、契約の継続性・独立性・営利性といった実態で判断されるものだと僕は理解しています。役職定年後や定年後に顧問デビューする方の多くは、会社員時代に確定申告そのものに縁がなかったケースが多く、ここで戸惑う方を何人も見てきました。今日は、顧問業の確定申告と税務について、僕が現場で見聞きした範囲の目安値も含めてお伝えしたいと思います。

顧問料の目安は月20万〜40万円程度とお伝えすることが多いのですが、この金額がそのまま『儲け』になるわけではありません。経費を引いた後の所得に対して所得税・住民税・場合によっては消費税がかかってくるため、契約時点で『税引き後にいくら残るか』を大まかに把握しておくことは、顧問としての活動を続けるうえでの土台になると考えています。

0. 顧問の確定申告、まず知っておきたい全体像

顧問というお仕事は、雇用契約ではなく業務委託契約で結ばれることがほとんどです。会社員時代は給与所得として会社が年末調整をしてくれていましたが、顧問になった瞬間からは自分で確定申告をする側に回ります。ここでまず整理しておきたいのが、顧問料という収入を税務上どう分類するかという論点です。国税庁のタックスアンサーでは、所得は事業所得・雑所得など性質によって区分され、それぞれ使える控除や損失の扱いが異なると説明されています。この区分を曖昧にしたまま契約を重ねてしまうと、確定申告の時期に『思っていたより手元に残らない』という感覚に驚く方が少なくないというのが、僕がこれまで見てきた実感です。まずは全体像を掴んでから、各論に入っていきましょう。

1. 事業所得か雑所得か——僕が現場で見た分岐点

先日、顧問契約を3社と結んだ方から、こんな相談を受けました。3社合計で月55万円ほどの顧問料が入ってくるようになったものの、確定申告の時期になって『思ったより税金が高い』と驚いていた、という話です。詳しく聞くと、この方は開業届を出していなかったため、顧問としての収入をすべて雑所得として申告していました。雑所得のままだと、青色申告特別控除は使えず、他の所得との損益通算(たとえば初年度に営業のための出費がかさんで赤字になった場合に、他の所得と相殺すること)も原則できません。

国税庁の考え方では、所得区分は契約書の名称ではなく、その活動が継続的・独立的に行われ、営利性を持って営まれているかという実態で判断されるとされています。僕の体感値で言うと、複数社と継続的に契約し、月20万円を超える顧問料を安定的に得ているケースは、事業所得として扱われることが多い印象です。一方、単発の講演料やごく少額の顧問料は、雑所得として扱われる例も見られます。事業所得と雑所得では、実務上の扱いに次のような違いが出てきます。

項目事業所得の場合雑所得の場合
青色申告特別控除最大65万円の目安(e-Tax申告時。要件を満たす場合)適用なし
他の所得との損益通算可能な場合が多い原則不可
記帳の手間複式簿記など記帳の手間が増える目安比較的簡易な記帳で済む場合が多い
屋号での請求書発行可能個人名での受託が基本

顧問料の受け取り方別に見る、所得区分の目安

同じ「顧問」という肩書きでも、受け取り方によって所得区分の見え方はかなり違ってきます。僕の周りで見てきたパターンを3つに整理すると、次のような傾向があると感じています。あくまで独自ガイドの目安値であり、最終的な判断は税務署や税理士への確認が前提です。

パターン顧問料の目安所得区分の傾向
単発1社・スポット的な関与年数十万円程度雑所得として扱われる例が多い印象
複数社(2〜3社)と継続契約月20万〜40万円程度事業所得として扱われる例が多い印象
大型契約を含む複数社契約複数社合計で月80万円超事業所得+消費税の課税事業者化の検討が必要になりやすい

2. 開業届を出すかどうかの判断基準

開業届(個人事業の開業・廃業等届出書)は、事業を開始した日から1か月以内に税務署に提出するのが原則とされています。ただ、僕の周りで顧問デビューされた方を見ていると、契約1社目が決まった時点ではなく、2社目・3社目が決まって『これは継続的な事業になりそうだ』と実感した段階で提出する方も多い印象です。

開業届を出すこと自体に費用はかかりませんが、出すことで青色申告の選択が可能になり、先ほどの青色申告特別控除(最大65万円の目安、e-Taxでの申告や一定の記帳要件を満たす場合)を使えるようになります。加えて、屋号での請求書発行や、事業用の口座・クレジットカードを事業用として運用しやすくなるという実務上のメリットもあります。

一方で、開業届を出すと、会社員時代に受けていた失業給付の扱いに影響が出る可能性がある、という点は事前に確認しておくべきポイントです。役職定年後や早期退職後に一定期間の失業給付を受ける予定がある方は、開業届を出すタイミングをハローワークに相談してから決めることを僕はおすすめしています。

3. 経費にできるもの・できないものの目安

顧問業で経費にできるものの範囲は、会社員時代の感覚とはかなり違います。目安として、僕がこれまで見てきた顧問の方々の経費比率は、顧問料収入の10〜20%程度に収まることが多い印象です。具体的には、次のようなものが経費として認められやすいと考えられています。

一方で、完全に私用と業務が混在するもの(自宅の家賃や光熱費の全額など)をそのまま経費にするのは難しく、業務で使用している割合に応じて按分するのが基本的な考え方です。この按分の比率は税務調査で確認されやすいポイントでもあるため、『何にどれだけ使ったか』を月次でメモしておく習慣が、後々の安心につながると僕は考えています。

よくある失敗と対処

顧問1年目の方から聞く失敗には、いくつか共通のパターンがあると感じています。ここでは代表的な3つと、僕なりの対処の考え方を並べておきます。

4. インボイス制度と消費税——顧問契約への影響

2023年10月に始まったインボイス制度は、顧問という働き方にも影響を及ぼしています。ポイントは、顧問料に消費税を乗せて請求できるかどうかは、自分が「適格請求書発行事業者」として登録しているかどうかで変わってくるという点です。

原則として、年間の売上(顧問料収入)が1,000万円の目安を超える事業者は消費税の課税事業者となり、インボイス発行事業者への登録が実務上必須に近い状態になります。一方、それ未満の免税事業者であっても、契約先の企業がインボイス発行事業者との取引を優先する傾向があるため、登録するかどうかの判断を迫られる場面が増えていると感じています。

免税事業者からインボイス発行事業者に切り替えた場合の負担を緩和するため、2029年までは一定の割合(申告する消費税額の負担を抑える経過措置)が設けられていますが、この経過措置も段階的に縮小していく設計です。顧問料が月30万円を超えるような契約を複数社と結んでいる方は、年間の合計収入が1,000万円のラインに近づいているかどうかを一度確認し、税理士に相談しておくことをおすすめします。

5. 顧問契約前後に、今日やっておきたい実務

ここまで税務の考え方を見てきましたが、実際に何から手をつければいいのか迷う方も多いと思います。顧問契約が決まった直後、もしくは検討中の今の段階でやっておきたい実務を、所要時間の目安つきで順番に並べてみます。

  1. 事業用の銀行口座を1つ分ける(所要時間の目安:窓口手続きで30分程度)。プライベートの口座と顧問料の入金を混在させないことで、後の集計が格段に楽になります。
  2. 会計ソフトを1つ選び、月次で入金・経費を記録する習慣をつける(所要時間の目安:月10分程度)。継続のコツは、この10分を超えない範囲に入力作業を収めることだと感じています。
  3. 開業届を出すかどうかを、契約社数の見通しと合わせて検討する(所要時間の目安:検討・記入で1時間程度)。1社だけの単発契約か、複数社との継続契約かで判断が変わります。
  4. 顧問料が年間でどのくらいの規模になりそうかを見積もり、1,000万円のラインに近いかどうかを確認する(所要時間の目安:30分程度)。
  5. 税理士に一度スポットで相談する(所要時間の目安:初回相談60〜90分程度)。顧問契約の場合、確定申告だけを年1回依頼するスポット契約でも十分というケースが多い印象です。

この5つは、いずれも顧問契約が始まってから慌てて着手するより、契約前後の早い段階で手をつけておいたほうが、確定申告の時期にかかる時間と不安をかなり減らせると僕は考えています。

6.(結論)顧問の税務は「翌年の自分」への投資と考える

顧問としての税務処理は、正直に言えば、会社員時代の確定申告不要の生活に比べると手間が増えます。ただ、事業所得としてきちんと申告し、青色申告特別控除や経費計上のルールを理解しておくことは、翌年以降の自分に対する投資のようなものだと僕は捉えています。最初の1年は分からないことばかりで当然ですし、税理士へのスポット相談を含めて、専門家の手を借りることを迷わず選んでよい領域だと思います。

顧問という働き方は、契約社数や稼働時間を自分でコントロールできる自由さが魅力の一つです。その自由さを長く楽しむためにも、税務の土台を早い段階で整えておくことをおすすめします。

皆さんいかがでしたでしょうか。顧問としての一歩目を踏み出すにあたって、税務の話は少し地味に感じるかもしれませんが、後から一番『知っておけばよかった』と言われる領域でもあります。では今日もがんばりましょう。

よくある質問

Q. 顧問の確定申告は「事業所得」と「雑所得」どちらで申告すればいいですか?

契約書の名称ではなく、活動の継続性・独立性・営利性といった実態で判断するのが基本です。目安として、複数社と継続的に契約し月20万円前後の顧問料を安定的に得ているケースは事業所得として扱われることが多い印象です。単発・少額の顧問料は雑所得として扱われる例も見られます。事業所得であれば青色申告特別控除(最大65万円の目安)や損益通算が使える点が大きな違いになるため、判断に迷う場合は税理士や税務署に一度確認することをおすすめします。

Q. 顧問業を始めたら開業届は出したほうがいいですか?

必須ではありませんが、複数社と継続的に契約する見通しがあるなら開業届を出すメリットが大きいと考えています。開業届を出して青色申告を選択すると、最大65万円の目安の青色申告特別控除が使えるほか、屋号での請求書発行もしやすくなります。ただし、失業給付を受給中・受給予定の方は、開業届の提出タイミングが給付に影響する可能性があるため、事前にハローワークへ相談してから決めることをおすすめします。

Q. 顧問料に消費税はかかりますか?インボイス制度の影響は?

年間の顧問料収入が1,000万円の目安を超えると消費税の課税事業者となり、インボイス発行事業者への登録を実務上検討する必要が出てきます。1,000万円未満の免税事業者であっても、契約先企業がインボイス発行事業者との取引を優先する傾向があるため、登録するかどうかの判断を求められる場面が増えています。2029年までは経過措置がありますが、段階的に縮小する設計になっている点も踏まえて早めに検討することをおすすめします。

監修:山根 一城(株式会社ポテンシャライト 代表)

IT人材業界20年、ギークリー創業を経て現職。個人として通算4,200名のキャリア面談を実施してきた経験に基づき監修しています。本文中の年収・難易度等は独自ガイドの目安値であり、個人の経験・企業により変動します。

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