顧問の社会保険はどうなる?任意継続と国民年金の切り替え実務
- 顧問契約に切り替えると健康保険は任意継続か国民健康保険を選ぶ必要があり、上限のある任意継続が有利なケースが多い。
- 60歳以上で顧問になる場合、国民年金の加入義務は原則なくなるが、納付月数が480月未満なら65歳まで任意加入できる。
- 国民健康保険料は前年所得に連動するため、複数社と契約した顧問2年目に保険料が上がる点を見落としやすい。
「顧問料は月30万円で決まったのに、いざ蓋を開けたら健康保険料と年金保険料でこんなに引かれるとは思っていませんでした」——僕がある元人事部長の方(60代)から聞いた言葉です。
結論から申し上げます。顧問契約に切り替わると、会社員時代に会社と折半していた社会保険料は基本的に「全額自己負担」に変わります。ただし60歳以上で顧問になる場合、国民年金については実は払わなくてよいケースが大半です。この「知っているかどうか」だけで、手取りの見え方は大きく変わってきます。本記事では、僕がこれまで見てきた事例をもとに、健康保険と年金それぞれの選び方、よくある失敗のパターン、そして見落としがちな2年目の落とし穴までお伝えします。
1. 会社員の社会保険から外れると、何が変わるのか
会社員であれば、皆さんは「厚生年金保険の第2号被保険者」であり、健康保険も会社の協会けんぽや健保組合に加入していたはずです。保険料は労使折半で、給与から天引きされるため、意識する機会はあまりなかったのではないでしょうか。
ところが顧問契約に切り替わり、業務委託(個人事業主)として働く形になると、この構造がすべて外れます。健康保険は「任意継続」か「国民健康保険」のどちらかを自分で選ぶ必要があり、年金は「国民年金の第1号被保険者」に切り替わります(60歳未満の場合)。折半していた会社負担分がなくなるため、額面上の顧問料が同じでも、手取りの実感は会社員時代より下がると考えておいた方がいいと僕は思います。
ここで一つ、皆さんに知っておいていただきたい例外があります。同じ会社に「嘱託」や「再雇用」という雇用契約の形で残りながら顧問的な業務を担う場合は、雇用契約である以上、厚生年金や健康保険への加入が続くケースもあります。一方、業務委託契約としての「顧問」は雇用関係がないため、社会保険はすべて個人での加入・納付に切り替わります。契約書に「雇用」か「業務委託」かが明記されているか、この段階で必ず確認しておくことを僕はお勧めしています。
2. 健康保険——任意継続と国民健康保険、どちらを選ぶか
退職後の健康保険には、大きく分けて2つの選択肢があります。ひとつは「任意継続被保険者制度」で、退職前に加入していた健康保険に引き続き加入する方法です。退職日の翌日から20日以内に申請する必要があり、加入できる期間は最長2年間と決まっています(全国健康保険協会)。もうひとつは、お住まいの市区町村が運営する「国民健康保険」です。
僕の体感値で言うと、退職時の給与水準が高かった方ほど任意継続が有利になるケースが多いです。理由は、任意継続の保険料には上限(標準報酬月額の上限)が設けられている一方、国民健康保険料には前年の所得に応じて増えていく仕組みがあり、上限額も年々引き上げられているためです。厚生労働省の制度改正により、令和6年度の国民健康保険料の賦課限度額(基礎分・後期高齢者支援金分・介護分の合計)は106万円まで引き上げられています。
| 項目 | 任意継続被保険者 | 国民健康保険 |
|---|---|---|
| 加入期間 | 最長2年間 | 制限なし |
| 保険料の決まり方 | 退職時の標準報酬月額(上限あり) | 前年の所得(自治体ごとに算定方式が異なる) |
| 負担感の傾向 | 初年度は割安なことが多い | 所得が上がると翌年度に上がりやすい |
実際に僕が担当した64歳の元役員の方は、退職時の給与水準が高かったため、任意継続を選んだ初年度は国民健康保険よりも月あたり数万円単位で安く済んだと話していました。ただし2年目以降は任意継続の保険料もわずかに上がる仕組みがあるため、2年間の合計でどちらが得かを試算してから決めるべきだったと振り返っていました。
ここで注意したいのは、任意継続は一度選ぶと原則として自分の都合だけでは国民健康保険に途中で切り替えられない、という点です。申請前にどちらが得か、目安の試算をしておくことを僕はお勧めしています。
3. 年金——60歳の壁を知っているかどうかで手続きが変わる
国民年金は「20歳以上60歳未満」の方が加入対象です(日本年金機構)。つまり60歳以上で会社を退職し、顧問として働き始める方は、国民年金の加入義務そのものがなくなります。僕が面談してきた方の中にも、「顧問になったら年金の手続きも必要ですよね」と心配される方が少なくありませんが、60歳以上の方に関しては、この点は基本的に気にしなくて大丈夫です。
一方、59歳以下で顧問契約に切り替える方は、国民年金の第1号被保険者として自分で加入手続きを行い、保険料を納める必要があります。2025年度の国民年金保険料は月額17,510円が目安です(日本年金機構公表)。また、納付済み期間が480月(40年)に満たない方は、60歳から65歳まで任意加入して満額に近づける制度もあります。僕の周りでも、この任意加入制度を知らずに「もう払わなくていい」と思い込んでいた方がいたので、念のため年金事務所やねんきんネットで納付月数を確認しておくことをお勧めします。
もう一つ、個人事業主として国民年金に加入する方に知っておいていただきたいのが「付加年金」という制度です。月額400円を上乗せして納付すると、将来受け取る年金額に「200円×納付月数」が上乗せされます(日本年金機構)。顧問という個人事業主の立場だからこそ選べる制度で、僕の周りでも活用している方が少しずつ増えている印象です。
4. 複数社と契約したときの落とし穴——2年目に保険料が上がる
顧問は1社専属ではなく、複数社と契約するのが一般的です。手続き自体は「会社員か個人事業主か」で決まるため、契約社数が増えても健康保険や年金の手続きが複雑になるわけではありません。ただし、僕がこれまで見てきた中で最も見落とされがちなのが、国民健康保険料の「翌年度に反映される」という仕組みです。
顧問契約1年目は、前職の給与所得をベースに保険料が算定されるため、思ったより高くないと感じる方が多いのですが、2年目になると、1年目の顧問報酬(複数社分の合計所得)を基準に保険料が再計算されます。複数社と契約して報酬が増えた方ほど、2年目の保険料の上がり幅を大きく感じる傾向があると僕は体感しています。
目安として、前年の顧問報酬(複数社の合計)が300万円から500万円に増えた方の場合、翌年度の国民健康保険料は自治体の算定方式にもよりますが、僕の体感値では年間で数万円から十数万円ほど上がるケースを見てきました。契約社数が増えて報酬が上向くこと自体は喜ばしいことですが、その分だけ翌年の保険料も上がる、という前提でキャッシュフローを組んでおくことが大切です。
5. よくある失敗と対処——僕が見てきた3つのケース
ここからは、僕が実際の相談の中で目にしてきた失敗のパターンを3つご紹介します。同じ轍を踏まないための参考にしていただければと思います。
ケース1:任意継続の申請期限を過ぎてしまった。任意継続の申請期限は退職日の翌日から20日以内と非常に短く、退職の慌ただしさの中でうっかり過ぎてしまう方が一定数いらっしゃいます。期限を過ぎると任意継続という選択肢自体がなくなり、国民健康保険を選ぶしかなくなります。退職日が決まった時点で、カレンダーに申請期限を書き込んでおくことをお勧めします。
ケース2:60歳以上なのに年金の手続きが必要だと思い込んでいた。60歳以上で顧問になる方の中には、「年金事務所に何か届け出なければ」と不安になり、時間を使って窓口に相談に行かれる方もいます。60歳以上であれば国民年金の加入義務そのものがないため、基本的には何もしなくて大丈夫です。不安な場合は、まず年齢だけを確認すれば済む話だと僕はお伝えしています。
ケース3:2年目の保険料増を見込んでおらず、貯蓄計画が狂った。複数社と契約して報酬が増えた方ほど、2年目の国民健康保険料の上がり幅を実感として大きく感じる傾向があります。1年目の手取りだけで生活設計を組んでしまうと、2年目に想定外の支出が発生することになります。契約時点で「2年目はこのくらい上がる可能性がある」と幅を持たせて試算しておくことが対処法です。
6. 実務チェックリスト——退職前後にやるべきこと
最後に、退職前後にやるべきことを時系列で整理します。所要時間の目安もあわせてお伝えしますので、スケジュールを組む参考にしてください。
- 退職前(所要時間:半日程度):任意継続にするか国民健康保険にするかを、保険料の試算をもとに決める。協会けんぽや健保組合の窓口、市区町村の国民健康保険窓口の両方に概算を問い合わせておく
- 退職直後(所要時間:申請自体は1〜2時間程度、期限は退職翌日から20日以内):任意継続を選ぶ場合は速やかに申請する
- 退職後1か月以内(所要時間:1時間程度):60歳以上の方は国民年金の加入義務がないことを確認し、それ以外の方は第1号被保険者としての加入手続きを行う。「ねんきんネット」で納付月数も確認しておく
- 顧問契約開始後1年目の年末(所要時間:1時間程度):翌年度の国民健康保険料がどの程度上がりそうか、前年所得の見込みをもとに概算しておく
この4つのタイミングを押さえておくだけで、僕が冒頭でお伝えしたような「思っていたより引かれる」という驚きは、かなり減らせるはずです。
7.(結論)手取りの見え方は、手続きの知識で変わる
顧問という働き方は、会社員時代とは社会保険の構造がまるごと変わります。健康保険は任意継続か国民健康保険かの選択、年金は60歳の壁を境に義務の有無が変わる——この2点さえ押さえておけば、あとは自治体や年金事務所での手続きの話です。難しく考えすぎず、まずは自分の年齢と退職時期を確認するところから始めていただければと思います。
皆さんいかがでしたでしょうか。手取りの実感は、契約条件だけでなく、こうした制度の理解でも変わってきます。では今日もがんばりましょう。
よくある質問
Q. 顧問になると健康保険はどうすればいいですか?
会社員時代の健康保険からは外れ、退職前の保険に引き続き加入できる「任意継続被保険者制度」(最長2年間)か、市区町村の「国民健康保険」のどちらかを選ぶことになります。任意継続には保険料の上限があるため、退職時の給与水準が高かった方ほど任意継続が有利になるケースが多いというのが僕の体感値です。申請期限は退職日の翌日から20日以内と短いので、早めに試算しておくことをお勧めします。
Q. 顧問になったら国民年金は払う必要がありますか?
国民年金の加入対象は20歳以上60歳未満の方です(日本年金機構)。60歳以上で会社を退職し顧問として働き始める場合、国民年金の加入義務は原則なくなります。一方59歳以下で顧問契約に切り替える方は第1号被保険者として自分で加入・納付する必要があり、2025年度の保険料は月額17,510円が目安です。納付済み期間が480月に満たない方は65歳まで任意加入できる制度もあります。
Q. 複数社と顧問契約すると社会保険料の負担はどう変わりますか?
手続き自体は会社員か個人事業主かで決まるため、契約社数が増えても複雑にはなりません。ただし国民健康保険料は前年の所得に連動するため、複数社との契約で報酬が増えた翌年度に保険料が上がりやすい点は見落とされがちです。1年目の手取りだけでなく、2年目以降の負担も織り込んで顧問料の交渉や貯蓄計画を立てておくことを僕はお勧めしています。
IT人材業界20年、ギークリー創業を経て現職。個人として通算4,200名のキャリア面談を実施してきた経験に基づき監修しています。本文中の年収・難易度等は独自ガイドの目安値であり、個人の経験・企業により変動します。