社会保険・年金2026-09-08監修:山根一城(株式会社ポテンシャライト)

顧問報酬と年金は両立できるか——在職老齢年金の分岐点と2026年見直し

この記事の要点

「顧問料は月30万円ほどいただけそうです。でも年金も受け取り始めているので、両方もらうと減らされてしまうんじゃないかと心配で……」

結論から言うと、多くの顧問の働き方では、老齢厚生年金は満額支給されます。減額の対象になるかどうかは報酬の多寡ではなく「厚生年金保険の被保険者として働いているかどうか」で決まる——これが在職老齢年金という制度の分岐点です。僕の体感で言うと、業務委託契約一本で顧問をされている方からこの制度で年金が減ったというご相談を受けたことはほとんどありません。一方で、非常勤役員や嘱託雇用の形で契約されている方には、注意していただきたい場面が実際にあります。

0. 結論——顧問報酬と年金、両方受け取れるかは「厚生年金の被保険者かどうか」で決まる

在職老齢年金という制度は、名前だけ聞くと「働いたら年金が減る制度」という漠然とした不安を呼びます。ですが実際の仕組みはもっと限定的です。対象になるのは老齢厚生年金(報酬比例部分)だけで、老齢基礎年金は対象外です。そして何より、この制度が適用されるのは「厚生年金保険の被保険者として在職している人」に限られます。業務委託契約で個人事業主として顧問業務を行っている方は、雇用契約でも役員でもないため、原則として厚生年金の被保険者にはなりません。つまり、報酬がいくら高くても在職老齢年金の対象そのものに入らない、というのが実務上の分岐点です。この分岐点を最初に押さえておくだけで、契約形態を検討する際の判断材料が一つ増えます。

1. 在職老齢年金の仕組み——賃金と年金の合計が基準額を超えると年金の一部が止まる

制度の中身を整理します。在職老齢年金は、厚生年金保険の被保険者として働きながら老齢厚生年金を受け取る人を対象に、賃金相当額(標準報酬月額に近い概念)と老齢厚生年金(報酬比例部分)の月額を合算し、その合計が一定の基準額を超えると、超えた分の半分が年金から支給停止される仕組みです。日本年金機構によれば、この支給停止調整額は2024年度で月50万円が目安値として示されています。たとえば賃金相当額が35万円、年金月額が20万円で合計55万円だとすると、基準額を5万円超えるため、その半分の2万5千円が支給停止される、という計算になります。老齢基礎年金はこの計算に一切含まれず、満額そのまま支給される点も押さえておきたいところです。なお賃金相当額には賞与を月割りした額も含まれるため、賞与のある嘱託雇用契約の方は、月々の給与だけで判断すると計算がずれる場合があります。

2. 業務委託契約の顧問はなぜ対象外になりやすいのか

顧問マッチングを通じて契約する案件の多くは、雇用契約ではなく業務委託契約です。業務委託は労働基準法上の労働者性が薄く、企業側と雇用関係を結ばない働き方のため、厚生年金保険の適用対象になりません。厚生年金の被保険者資格は「適用事業所に使用される70歳未満の人」に対して発生するもので、雇用関係のない業務委託契約はこの前提を満たさないのが一般的な整理です。したがって業務委託一本で複数社の顧問を掛け持ちしている方は、報酬総額が月50万円を超えていても、在職老齢年金の計算そのものの対象外になるケースが多い、というのが僕の見てきた実務感覚です。ただし国民健康保険料や国民年金保険料の切り替え、確定申告での所得区分の整理は別途必要になりますので、年金の話と税務・保険の話は切り分けて考える必要があります。

3. 非常勤役員・嘱託雇用型の顧問は要注意——厚生年金加入の判定基準

一方で注意が必要なのが、非常勤役員や嘱託雇用として契約する顧問です。厚生年金の適用は契約の名称ではなく実態で判断されます。一般社員の所定労働時間・所定労働日数のおおむね4分の3以上働く形態や、特定適用事業所で週20時間以上・月額賃金8.8万円以上などの要件を満たす短時間労働者は、厚生年金保険の被保険者になります。非常勤役員であっても、常勤性が高く役員報酬の実態が労務対価に近いと判断されれば、社会保険加入の対象と整理されることがあります。この場合は在職老齢年金の計算対象に入るため、報酬設計の段階で「厚生年金に加入する働き方かどうか」を先に確認しておくことが重要です。

契約形態厚生年金への加入在職老齢年金の対象
業務委託契約(個人事業主)原則加入なし原則対象外
非常勤役員(常勤性が高い場合)加入対象になりうる対象になりうる
嘱託雇用(週の労働時間が基準以上)加入対象対象

4. 2026年4月からの見直し——基準額62万円への引き上げが変えること

ここで一つ、今後の見通しに触れておきます。2025年6月に成立した年金制度改正法により、在職老齢年金の支給停止調整額は2026年4月から現行の50万円から62万円へ引き上げられる予定です(厚生労働省)。基準額が上がるということは、厚生年金に加入して働く非常勤役員型・嘱託雇用型の顧問にとって、年金が減額される報酬水準のラインが上がるということを意味します。僕の体感値で言うと、今まで「役員報酬と年金の合計が基準を超えるので契約形態を業務委託に変えられませんか」というご相談をいただく場面が何度かありましたが、この見直し後は同じ報酬水準でも支給停止にかからない方が増えると見ています。ただし施行時期と細部の運用は今後の政省令で確定していく部分もあるため、直前の年金事務所への確認は引き続き必要です。

5. よくある失敗と対処——契約書の文言だけで安心してしまう

実務で見かける失敗の一つ目は、契約書に「業務委託」と書かれているという理由だけで、在職老齢年金の対象外だと思い込んでしまうケースです。年金事務所や日本年金機構は契約書の名称ではなく実態、つまり指揮命令の有無や勤務場所・時間の拘束度合いで厚生年金の適用を判断します。書類上は業務委託でも、実質的に社員と同じ時間帯に常駐し、上司にあたる担当者から日々の指示を受けているような働き方は、後から厚生年金の加入対象と整理される可能性があります。対処としては、契約更新のタイミングで自分の働き方を棚卸しし、指揮命令を受けていないか、勤務時間の拘束がどの程度あるかを客観的に見直すことをお勧めします。二つ目の失敗は、複数社と業務委託契約を結んでいたところに1社だけ嘱託雇用へ切り替えた結果、その1社の労働時間だけで厚生年金の加入要件を満たしてしまい、意図せず在職老齢年金の対象になってしまうというものです。契約形態を変更する際は、変更前に年金事務所や社労士に確認し、他社との合算ではなく契約ごとの加入要件を個別に確認しておくことが大切です。三つ目は「ねんきん定期便」に記載された年金見込み額だけを見て安心し、実際の報酬比例部分の月額換算を確認していなかったために、想定より支給停止額が大きく出てしまうケースです。日本年金機構のねんきんネットや年金事務所の窓口で、実際の月額に落とし込んだ数字を確認してからシミュレーションすることをお勧めします。

6. ケース比較——契約形態の違いで年金がどう変わるか

具体的な数字で比較してみます。Aさんは65歳で、2社と業務委託契約を結ぶ顧問です。報酬合計は月45万円、老齢厚生年金は月18万円で、合計すると63万円になりますが、業務委託契約のため厚生年金には未加入です。したがって在職老齢年金の計算対象そのものに入らず、年金は満額支給されます。Bさんは63歳で、ある企業の非常勤役員として月40万円の報酬を受け取っており、週3日出社して常勤性が高いと判定されたため厚生年金に加入しています。老齢厚生年金は月15万円で、賃金相当額40万円と合計すると55万円となり、2024年度の基準額50万円を5万円超えるため、その半分の2万5千円が支給停止されます。ただし2026年4月以降に基準額が62万円へ引き上げられれば、55万円は基準額以下となり、支給停止が解消される見込みです。Cさんは66歳で、嘱託雇用として週4日勤務し、月給30万円で厚生年金に加入、老齢厚生年金は月22万円です。合計52万円は2024年度の基準額を2万円超えるため、1万円が支給停止されます。同じ「顧問」という肩書でも、契約形態と労働時間次第で年金の扱いはこれだけ変わるということが、この3つのケースから見えてきます。

(結論)今日からできる3つの確認

皆さんいかがでしたでしょうか。最後に、今日から確認できることを3つ挙げておきます。一つ目は契約形態の確認です。業務委託なのか、非常勤役員や嘱託雇用なのか、契約書の文言と実際の働き方の両方を見直してください。二つ目は労働時間・常勤性の確認です。週の稼働時間や出社頻度が、厚生年金の加入要件に近づいていないかをチェックします。三つ目は年金事務所や「ねんきん定期便」を使った実額の確認です。制度は個々の報酬額・年金額によって計算結果が変わるため、一般論だけで判断せず、ご自身の数字で一度シミュレーションしておくことをお勧めします。顧問という働き方は、年金と報酬のバランスを自分で設計できる自由度の高さも魅力の一つです。その自由度を活かすためにも、制度の分岐点だけは正確に押さえておきましょう。では今日もがんばりましょう。

よくある質問

Q. 顧問として働くと年金は減らされますか?

厚生年金の被保険者にならない業務委託契約の顧問であれば、老齢厚生年金は在職老齢年金の対象外となり原則満額支給されます。ただし非常勤役員や雇用型で厚生年金に加入する場合は、報酬額次第で年金の一部が支給停止されることがあります。

Q. 在職老齢年金の基準額はいくらですか?

日本年金機構によれば2024年度の支給停止調整額は月50万円です。賃金相当額と老齢厚生年金(報酬比例部分)の合計がこの額を超えると、超えた分の半分が支給停止となります。老齢基礎年金は対象外です。

Q. 2026年の年金制度改正で何が変わりますか?

2025年6月成立の年金制度改正法により、2026年4月から在職老齢年金の支給停止調整額が50万円から62万円に引き上げられる予定です。厚生年金に加入して働く顧問でも、年金が減額されにくくなります。

監修:山根 一城(株式会社ポテンシャライト 代表)

IT人材業界20年、ギークリー創業を経て現職。個人として通算4,200名のキャリア面談を実施してきた経験に基づき監修しています。本文中の年収・難易度等は独自ガイドの目安値であり、個人の経験・企業により変動します。

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