採用顧問という仕事——人事部のない会社をどう強くするか
- 採用顧問は求人代行ではなく、採用戦略そのものの設計者としての役割を担う。
- 採用顧問は週1日稼働が一般的で、複数社を掛け持ちしながら年収換算で本業に匹敵する収入を得る人もいる。
- 事業会社で人事部長・採用責任者を経験した人が最も適性が高い。
「求人を出しているのに、応募が1件も来ないんです」
これは、従業員30名ほどの製造業の経営者から、僕が本当に何度も聞いてきた相談です。皆さま、もし自社の求人に応募がゼロだったら、次に何をしますか。多くの経営者は、求人媒体を変える、あるいは掲載料を上げる、という発想にとどまります。ですが、本当の問題は媒体選びより手前にあることがほとんどです。
0. 前提:中小企業に「採用の専門家」はほとんどいない
率直に言うと、従業員100名未満の中小企業の多くには、専任の人事担当者すらいません。総務担当者が片手間で採用も兼務しているケースが大半です。ここに、採用顧問という働き方が刺さる余地が生まれています。専任の担当者がいないということは、採用のノウハウが社内に蓄積されないということでもあります。毎回ゼロから手探りで採用を行い、同じ失敗を繰り返す。この悪循環を断ち切る存在として、経験豊富な外部人材への期待が高まっているのです。
1. 採用顧問の本質は「求人代行」ではない
まず誤解を解いておきたいのが、採用顧問は求人票を書いたり媒体に掲載したりする作業代行ではないということです。本質は、「どのポジションを、どんな人物像で、どの経路で採るべきか」という戦略設計にあります。求人が集まらない企業の多くは、そもそも自社が求める人物像の言語化ができておらず、的外れな条件で求人を出し続けているケースが目立ちます。
2. 採用顧問が最初にやるべきこと
僕が採用顧問の仕事を見ていて感じるのは、優秀な顧問ほど最初の1ヶ月を「採用の前」に使うということです。具体的には、経営者へのヒアリングを通じて、本当に必要な人物像を言語化し、既存社員の離職理由や定着要因を分析します。ここを飛ばしていきなり求人を出すと、結局同じ失敗を繰り返します。
2-1. 職種ごとの経路の見極め
例えば製造現場のオペレーターであればハローワークや地域の求人サイトが有効ですが、専門職や管理職候補であれば人材紹介会社経由のほうが成約率が高い、というように、職種によって最適な採用経路は大きく異なります。採用顧問の価値は、この経路選定の判断を誤らないところにあります。
2-2. よくある失敗:全ポジションを同じ経路で採ろうとする
中小企業に多い失敗が、コストを抑えたいあまり、全ポジションを同じ求人媒体で採用しようとするパターンです。管理職候補もパートスタッフも同じ媒体に出してしまい、どちらの採用も中途半端に終わる。採用顧問はここに「予算配分の再設計」という価値を持ち込みます。
3. 中立性という強み
採用顧問がもう一つ持っている強みは中立性です。人材紹介会社の担当者は、成約させることが自身の収益に直結するため、どうしても「今すぐ決める」方向にバイアスがかかりがちです。一方、採用顧問は企業側の立場に立ち、特定の紹介会社や媒体に偏らずに助言できます。この中立性が、経営者からの信頼を積み重ねる土台になります。
4. 採用顧問に向いている経歴
最も適性が高いのは、事業会社で人事部長や採用責任者を経験した人です。特に、複数の職種・階層(新卒・中途・管理職)の採用に携わった経験があれば、業種を超えて汎用的な知見として通用します。人材紹介会社出身者ももちろん適性はありますが、事業会社側の意思決定プロセスを実際に経験している人のほうが、経営者との会話がスムーズに進む傾向があります。
5. 採用顧問が長く続く企業の共通点
僕が見てきた中で、採用顧問との契約が1年以上続く企業には共通点があります。それは、経営者自身が採用を「人事の仕事」ではなく「経営の仕事」として捉えていることです。逆に、採用を完全に丸投げしたい経営者との契約は、期待値のズレから短期間で終わってしまうことが多い印象があります。採用顧問は魔法使いではなく、あくまで経営者と伴走しながら意思決定を支える役割だという前提を、契約前にすり合わせておくことが長続きの鍵になります。
5-1. 経営者を巻き込む工夫
優れた採用顧問は、月次の定例ミーティングで単に進捗を報告するだけでなく、経営者自身に「この候補者のどこが自社に合うと感じますか」といった問いを投げかけ、採用の当事者意識を引き出します。この積み重ねが、契約終了後も企業が自走できる採用力の土台になります。
6. 採用顧問と定着支援は表裏一体
採用だけを支援して、入社後のフォローをしない顧問は、実は片手落ちです。中小企業が本当に困っているのは、採用そのものよりも早期離職です。採用顧問の中でも評価が高い人材は、入社後3ヶ月・6ヶ月といった節目で定着状況を確認し、必要に応じてオンボーディングの改善提案まで踏み込みます。採用と定着は別の課題のように見えて、実は同じ問題の入口と出口に過ぎません。
6-1. 定着率を左右する初期対応
体感値になりますが、入社後の最初の2週間の受け入れ体制が丁寧な企業ほど、その後の定着率が高い傾向があります。採用顧問がここまで踏み込んで助言できるかどうかが、企業からの信頼を長期的なものにする分岐点です。
7. 採用顧問が向き合う「求人票以前」の課題
求人票を書く前段階で、実は解決すべき課題が多く隠れています。給与水準が市場相場からずれていないか、労働条件が同業他社と比べて見劣りしないか。こうした土台の課題に手をつけずに求人票だけを工夫しても、根本的な解決にはなりません。採用顧問の仕事は、こうした構造的な課題を経営者に率直に指摘することも含まれます。
8. 面接官トレーニングという隠れた需要
採用顧問が担う仕事の中で、意外と需要が高いのが面接官のトレーニングです。中小企業では、経営者自身や現場のマネージャーが面接を担当することが多いのですが、体系的な面接トレーニングを受けたことがある人はほとんどいません。結果として、候補者の見極めが感覚頼みになり、入社後のミスマッチにつながります。採用顧問が面接官向けに、評価基準の統一やNG質問の共有といった簡単なレクチャーを行うだけで、選考の精度は目に見えて向上します。
8-1. 評価基準を言語化する効果
「なんとなく良さそう」という感覚的な評価から、「自社が求める行動特性のうち、どれを満たしているか」という言語化された評価基準に変えるだけで、複数の面接官の間で判断のブレが大きく減ります。この地味な改善が、実は採用成功率を左右する重要な要素です。
8-2. トレーニング教材は簡素で構わない
面接官トレーニングと聞くと大掛かりな研修を想像しがちですが、実際にはA4一枚の評価基準シートを用意するだけでも十分な効果があります。凝った教材より、明日の面接からすぐ使える簡素なツールのほうが、中小企業の現場には馴染みやすいものです。
8-3. 継続的な見直しが定着を生む
一度作った評価基準シートも、実際に使いながら年に一度は見直すことをお勧めします。事業のフェーズが変われば、求める人物像も変わります。作りっぱなしにせず、育てていく姿勢が採用顧問の仕事には求められます。
9. 今日からできること
白紙のメモを1枚用意して、自分がこれまで採用に関わった中で「最も採用が難航したポジション」を1つ思い出し、何が原因で、どう解決したかを書き出してみてください。所要時間は15分ほどです。これがそのまま、初回商談で語れる実績の骨格になります。あわせて、その経験から得た教訓を一文で言語化しておくと、初対面の経営者にも一瞬で伝わる自己紹介になります。
(結論)採用顧問は、人事部のない中小企業にとって、外部から借りる「人事部長の頭」です。そして人手不足が構造化した今、この頭を必要とする企業は増え続けています。あなたが事業会社で積んできた採用の経験は、思っている以上に多くの会社が待っている資産です。求人票の書き方ではなく、採用戦略そのものを設計できる力が、この仕事の本質です。皆さんいかがでしたでしょうか。ではまた次の記事でお会いしましょう。今日もがんばりましょう。
よくある質問
Q. 採用顧問と人材紹介会社の担当者は何が違いますか?
人材紹介会社は候補者を紹介して成約させることが収益源ですが、採用顧問は企業側に立ち、採用戦略や選考プロセスそのものの設計・改善を担います。特定の求人媒体や紹介会社に偏らない中立的な立場で助言できる点が異なります。
Q. 採用顧問に向いているのはどんな経歴の人ですか?
事業会社で人事部長・採用責任者を経験した人が最も適性が高いです。加えて、複数の職種・部門の採用に携わった経験があると、業種を超えて汎用的に対応できる強みになります。
Q. 採用顧問の稼働頻度はどれくらいが一般的ですか?
週1日程度の稼働が最も多いパターンです。月2回の定例ミーティングに加え、選考の重要局面でスポット対応するという形で、複数社を掛け持ちしている顧問も少なくありません。
IT人材業界20年、ギークリー創業を経て現職。個人として通算4,200名のキャリア面談を実施してきた経験に基づき監修しています。本文中の年収・難易度等は独自ガイドの目安値であり、個人の経験・企業により変動します。